2025年7月2日、欧州委員会は「廃電気電子機器(WEEE)指令2012/19/EUの評価を支援する調査報告書(※)」を発表しました。
RtoS研究会は、この全文を和訳しサマリーを作成した上で、内容についての解釈と提言を行っています。
欧州委員会がBetter Regulation Guidelines(より良い規制のガイドライン)の枠組みの中で廃電気電子機器(WEEE)に関する指令2012/19/EU(以下、WEEE改正指令)の評価を準備しているのを支援し、同指令が現在も目的に適合しているかどうかの証拠を提供することを目的に、その有効性、効率性、関連性、一貫性、EUの付加価値が評価された。
2019年に採択されたリサイクル率の算定ルールは2020年以降に適用されるため、今後の高品質なマテリアルリサイクルの増加の可能性について現時点で結論を出すことは難しい。
EPR制度は加盟国によって異なり、生産者が国毎に義務を理解し遵守することは難しい。簡素化のためには、報告書フォーマットの調和や登録プロセスの透明性向上、国境を越えた協力が必要である。WEEE改正指令に伴う調整費用の分析では、カテゴリーの削減による移行期のハードルが高く、追加のガイダンスが求められている。PRO間の守秘義務がデータアクセスを妨げ、リサイクル業者は指令遵守に苦慮しコストが増加している。
承認代理人制度は異なる国で事業を行う際に生産者の義務が不明確になる点に加え、簡素化とコスト削減の観点からも改善の余地がある。
指令の目的はEEEセクターの環境パフォーマンスの向上であり、資源効率やゼロ汚染に関する指令の改善が求められている。WEEE改正指令と廃棄物枠組み指令の整合性が重要であり、廃棄物の防止が優先事項とされているが、指令の目標には反映されていない。
EEE製品の現行6分類は材料構成や危険性等を十分に考慮していないが、これを改善することでリサイクル効率が向上する可能性がある。生産者とリサイクル業者の協力は引き続き重要で、エコデザインの規則も考慮する必要がある。
現在の回収・処理要件は不十分であり、質の高いリサイクルを増やすために強化が必要。インパクトある野心的な回収目標が設定されるべきで、目標達成に向けたEUレベルでの追加要件が求められる。また、WEEE処理に関する現行の汚染除去要件(第8条、付属書VII)は時代遅れであり、現在のWEEEの増加傾向(LCDのITO等)も踏まえつつ、最新の技術を反映した改正が必要。
デジタル化の進展に伴う問題や非EU加盟国の販売者に関する規制の不備も指摘されており、これらに対処するための法整備が求められている。
WEEE改正指令自体の内部構造に矛盾はないが、法的な不確実性や乖離が存在する。特に、電気・電子部品を組み込んだ家具や繊維製品など消費者が電気・電子機器として認識していない製品が廃棄されないケースがあり、指令の定義が不明確かつ不十分である。また、WEEE改正指令は収集率算出に関する方法論が長寿命化を妨げる可能性においてエコデザイン指令と整合しておらず、RoHS指令では対象外とされるPVパネルがWEEE改正指令では分別収集の優先製品群に含まれる点や、CRM(Critical Raw Material)を含む部品情報の記録方法等への既定の有無がCRM法の提案と乖離しているといった他法制度との隔たりが見られる。WEEE改正指令はEUの循環経済戦略に寄与するものであり、持続可能な資源管理を目指しているが、上記のようにさらなる改善の余地が残されている。
WEEE改正指令の法的要件に準拠するためのコストは、加盟国が独自に行動した場合に予想されるコストと同等か、あるいはそれよりも低いことが示唆された。
今回、RtoS研究会では公開された「廃電気電子機器(WEEE)に関する指令2012/19/EUの評価を支援する研究」について翻訳版および概要版を作成しました。また、以下のような視点を持ちながら、近い将来行われるであろう指令の改正内容を注視しています。
改正WEEE指令におけるPVパネルの取扱いについては、本調査報告書でも多くのページ数を割いて検証がなされています。改正WEEE指令は、再生可能エネルギー技術の急激な普及に対して十分に対応しているとは言えません。特にPVパネルは明確なカテゴリーが存在せず、そのためトレーサビリティの監視が難しい状況にあります。今回の調査報告書では、PVパネルが長寿命であることから、収集率算定で用いられているPoM法(Put on Market、過去3年間に市場に投入された台数が基)はPVパネルについては使えないこと、PVパネルの分類の明確化、大規模発電所に由来するPVパネルを指令の範囲に含めることの妥当性、処理要件が不足していること等について課題を挙げており、全体として指令がリサイクル目標を達成するための効果的な仕組みを欠いていると指摘しています。
このようなことから、今後はPVパネルに関するカテゴリーを明確に提示し、目標を単独で設定することに舵が切られると考えられます。また、PVパネルはRoHS指令の対象外であり、その物質規制がPVパネルには適用されないことから、将来的にはさらに物質ごとの汚染除去要件が必要になることが予想されます。
現状、処理工程でのリサイクル率は80~84%と高い割合で推移しているものの、その計算根拠がリサイクル施設へのWEEE投入量で規定されており、機器に微量しか含まれていないCRMや重金属を含むガラスなど特定のWEEEに含まれる有害物質を十分考慮しているとは言えません。今後、CRM等の資源戦略の文脈において、WEEE収集率やリサイクル率などの分母を市場投入量から回収可能量に移す動きが進むと考えられます。
PVパネルについては上述の通り、指令の中で大幅な変更が予想されます。最終的に、改正WEEE指令の各種改善により、WEEEに関係する他の法令(特にエコデザイン指令)との整合性が図られ、EPR制度のうまくいっていない点などの課題は解消される方向に進むことが期待されます。また、CRMはEUの目標を受けて、より回収できる方向に向かうと考えられます。
この評価の作業は、欧州委員会が2026年12月31日までにEU WEEE指令の大幅な改正を行うために実施してきたものです。すなわち、2026年末までに包括的な改正を行うための法案作成の参考とされ、その後WEEE指令は大きく変わることが予想されます。
一方で、我が国でWEEEに対応する制度は家電リサイクル法と小型家電リサイクル法ですが、どちらも品目指定で、それぞれ異なる責任分担で対応しています。また、EUでWEEEの課題の1つとされてきたPVパネルについての制度もない上、小型家電リサイクル法の制定時にはなかった製品についての法的対応が追いつかず、これらの多くがLIB(リチウムイオン電池)を含んでいることから近年頻出している廃棄物処理施設等での火災の問題にもつながっています。
日本人の国民性から、リサイクルの状況がEUに劣っているとは思われません。しかし、単なる廃棄物の1項目ではなく、一貫した目標を持って、何がその達成を妨げる障害となっているかを常に評価していくこと、常に他の法律との整合性をとっていくこと、サーキュラーエコノミーの達成のために資源効率(CRM回収を含む)などに注力していく姿勢は我が国には大きく欠けていると考えます。
家電リサイクル法は法施行から25年、小型家電リサイクル法は12年がそれぞれ経過しています。昨今、GX投資が叫ばれ、日本は「資源循環を国家戦略に」(2024年)をスローガンに掲げました。資源の循環や地球環境に必須の希少金属を確保する文脈から、このような電気製品の二次資源としての役割は大きいのですが、充分に資源が回収されない処理内容や、海外に流出するなど課題は多くあります。これらは制度によらなければ防止できないものもある事から、国に対しては周辺制度を含めた包括的な類似の評価が行われることを望みます。
RtoS研究会では、この問題を継続的に議論していこうと考えています。
(文責:RtoS研究会事務局)
RtoS研究会では、下記文書の和訳を行いました。
Final Report: Study supporting the evaluation of Directive 2012/19/EU on waste electrical and electronic equipment (WEEE)
廃電気電子機器(WEEE)指令2012/19/EUの評価を支援する調査報告書(最終版)(PDF形式 翻訳版)を入手希望の方は、こちらのエントリーフォームからお申し込みください。
◯下記の欧州委員会の文書を翻訳しました。また各文書に対する研究会の視点を掲載しました。
・廃電気電子機器(WEEE)指令2012/19/EU の評価を支援する調査報告書に関するRtoS研究会の視点