RtoS研究会は、この全文を和訳しサマリーを作成した上で、内容についての解釈と提言を行っています。
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今回、廃止が提案されたエコデザインに関する指令(Directive 2009/125/EC)(※2)は、2005年に出されたDirective 2005/32/EC(通称EuP指令)(※3)に、エネルギーの消費に関連する製品全般に適用可能なエコデザイン要求を修正的に加えたものであり通称ErP指令(usingからrelated)と呼ばれていました。
(※2)Directive 2009/125/EC of the European Parliament and of the Council of 21 October 2009 establishing a framework for the setting of ecodesign requirements for energy-related products (recast)
(※3)DIRECTIVE 2005/32/EC OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL of 6 July 2005 establishing a framework for the setting of ecodesign requirements for energy-using products and amending Council Directive 92/42/EEC and Directives 96/57/EC and 2000/55/EC of the European Parliament and of the Council
EUにおいては、エネルギー使用製品(Energy-using product:EuP)が、天然資源とエネルギーの消費の大部分を占めており、その他にも製造から廃棄に至る段階で多くの重大な環境影響を及ぼしていることが懸念されていました。製品のライフサイクルで発生する汚染などは設計段階で決まってしまうため、これらの対処としては最初の設計段階での措置を講じるべきという考えのもと、EuP指令は開始されました。
もちろん、EuP指令のターゲットがエネルギー使用製品であることから、気候変動対策を目的としたエネルギー効率の高い機器の設計を目指してはいましたが、原材料の使用から最終処分に至るライフサイクル全般において懸念する環境影響という言葉が使われている点にも注目すべきであります。これらの機器内の有害物質の使用の制限(安全またはより安全な材料による置換)は、使用後の素材のリサイクルの可能性と経済的収益性を上昇させるほか、工場で働く労働者等への悪影響を減少させる可能性があるという考え方によるものです。指令制定の2005年に先立ち、2003年には、電気・電子機器における特定の有害物質の使用制限に関する指令(RoHS指令)、廃電気・電子機器に関する指令(WEEE指令)が出されていました。過去に製造過程や廃棄の際に多くの環境汚染を引き起こした原因物質を製品に使わない、またはそれらを確実に回収して処理するという方向性が、このEuP指令でエコデザイン要件としても明確にされていました。
EuP指令では、EuPの製造段階において、原材料の選定、製造、包装、輸送および流通、設置およびメンテナンス、使用、寿命末期(end-of-life)=廃棄段階、のライフサイクル全体で、(a)物質、エネルギー、および淡水などその他の資源の予測消費量、(b)大気、水域または土壌への予測排出量、(c)騒音、振動、放射線、電磁場などの物理的影響により予想される汚染、(d)見込まれる廃棄物の発生、(e)材料および/またはエネルギーの再利用、リサイクルおよび回収の可能性などへの考慮が求められていました。この要件を満たした製品について、製造者および輸入者は該当する要求を満足することを確認していることを自ら宣言し、それが認められたものには「CE」マークが付与され上市される仕組みでありました。しかしながら、一般的には、経済的に実行可能な範囲という側面も考慮されるので、「CE」=環境的にベストではなく、むしろ足切りと考えたほうがいいかもしれません。
2009年に出された指令(Directive 2009/125/EC)は、指令の範囲が電気製品や冷暖房器具など直接的エネルギーを利用するもののみではなく、それらと関連して省エネルギーなどに関連する製品群、いわゆるenergy-related productsまでに拡張したことから、通称ErP指令とも呼ばれていました。基本的に内容的には大きな変化はなかったともいえます。
今回の「持続可能な製品のエコデザイン要件設定のための枠組みを確立し、指令2009/125/ECを廃止する提案」では、過去のErP指令は廃止され、新エコデザイン規則として再スタートすることになります。
変更のポイントは大きく分けて4つあります。
指令(Directive)が規則(Regulation)になるということは、言うまでもなく、規則の範囲はもとよりその拘束力がEU全土に及ぶことになります。欧州委員会は今まで以上にサプライチェーン上の業者に対して、製品のエコデザイン要件への適合性を検証すべく、製造業者、公認通知機関、および所管の国家当局と協力するよう義務付けることができるようになります。
製品の範囲の拡大については、食品、飼料、医薬品など一部のセクターのみが適用除外とされており実質的にその他の製品ほとんどにエコデザイン要件が適用されることになるでしょう。
エコデザインの性能要件については、耐久性・信頼性、再使用性、アップグレード性、修理性、メンテナンス・リフォームの可能性、環境負荷物質の有無、エネルギー・資源効率、再生含有物などであり、EuP指令と比較して特段大きな変更点はありませんが、今回の提案には情報要件が含まれることに大きな特徴があります。
情報要件にはデジタル製品パスポート(DPP:Digital Products Passport)が義務づけられることになります。DPPはライフサイクル全体を通じて標準化されたデータの交換を可能にする、グローバルでオープンソースの業界標準で、ISOを目指せるように開発されています。内容自体は既に存在するSDS(Safety Data Sheet)をモデルにしていると言われ、テンプレートであるPCDS(Product Circularity Data Sheet)に必要な情報を入力するところまでは同じですが、さらに、それを交換するITシステムで成り立っています。
このデジタル製品パスポートの導入は、最も重要かつ衝撃的な点です。この導入により、今までは、ある意味、製造者側の宣言とその確認による表示で済んでいたものから、その製造企業のDD(デュー・ディリジェンス)、調達した使用材料の環境要件、長期使用可能性や、リサイクル性など、製品のライフサイクルに沿った情報を、監査人・金融関係のステークホルダーはもとより消費者レベルでも確認することが可能となります。同時に、サプライチェーンの上流ではある程度集まっていた種々の環境に関連する情報が製品販売後の消費の段階で失われ、そのためリサイクルする上で重要な情報などが利用できませんでしたが、今後は多くの改善に利用できるようになるわけです。
実は、この動きはEU内で唐突に出て来たものではありません。例えば、2010年に出されたEUROPE 2020では持続可能な経済成長が唱えられ、2011年に資源効率政策(RE: Resource Efficiency)が提唱され、環境影響を最小にしながら資源効率を向上させる方向性が示されています。2015年には、REは、より雇用や経済効果を強調したサーキュラー・エコノミー・パッケージ(CEP)へと進化しています。このCEPにもエコデザインについて大きく言及されていました。その後、新・欧州委員会(2019年)は、2024年までの6つの優先課題を挙げています。ここでの優先課題の一つである「欧州グリーンディール」(2019年)と呼ばれる政策に沿って出された産業戦略、新循環経済行動計画(2020年)は、Circular Economy (CE) Action Planと言われています。また、 新・欧州委員会の優先課題の一つには欧州デジタル化も含まれています。
この過去10年間で、EUは何百万トンものヨーロッパの廃棄物が、適切な処理がなされないまま、EU域外の国々に輸出されており、輸出先において環境や健康に悪影響を及ぼしたことはもとより、EU内の資源やリサイクル産業の経済的喪失につながることに対抗しようとしてきました。2017年の中国の輸入規制は、EUが海外の廃棄物処理に過度に依存していたことを露呈すると同時に、EU内のリサイクル産業の能力を高め、廃棄物に付加価値をつけようとする動きをも引き起こしたと言われます。欧州委員会は、EUが廃棄物の課題を第三国に輸出しないようにすることを目的に新たに動いています。それとともに製品の設計、副資材の品質と安全性、およびその市場の強化に関する行動を起こしており、その一つが今回提案されたエコデザイン規則です。
このような、戦略に従って実際の決まりは切れ目なく議論されていました。RtoS研究会で前回テーマにした、電池指令の電池規則(案)もその一つです。既に、電池や自動車の世界では戦略は実際の規則として具象化され始め、電池規則(案)におけるライフサイクルにおける環境側面の考え方は、新たな電池製造の際に一定割合の二次資源を使うこと、それら二次資源の回収目標の設定、電子パスポートによる管理などは完全に一連の動きであり、EU内でリサイクルされた副資材を質の高いものとするためのベンチマークとすることを目指しています。
この電池規則でもDPPが要求されていますが、実はそれ以外にも2022年に建設用品、衣料用品へのDPPの使用の動きがあり、将来数年の間にあと3・4製品にアプライされる可能性も言われています。この動きは今後も止まることはないでしょう。
EUの制度はEUであるから我が国はあまり関係ないという人もいるかもしれません。しかし、RoHS規制の時には、EUの制度でありながら世界のメーカーは対応せざるを得なくなりました。CEマークもEUのものですが、我々の周りの製品の裏側ではどこでも見つけることが可能です。製品はグローバルに展開され、皆が環境に憂慮して情報を欲していれば、どこの決まりであっても社会に受け入れられていきます。我が国の産業を考えた場合に、おそらく、サプライチェーンの上流は世界最高クラスの品質を誇り、性能面や原料の調達面(有害物を使わない管理など)では全く問題ないと思います。しかしながら、その品質至上主義ともいえることの裏返しで二次原料の使用には必ずしも積極的でないことや、二次原料を得る際の廃棄物処理法と資源有効利用促進法のバランスなどから、いわゆる循環資源を使いこなしていくことは得意ではありません。そのため、これまでも多くの二次資源が国外に流出し、国内の循環産業は力を失っていました。実は、EUも同様の状態で、廃棄物はアフリカや中国などに流れ、国内産業が疲弊していました。上述したようにその立て直しが現在の戦略になっています。
このエコデザインとデジタル製品パスポートの動きは、サプライチェーンのいわゆる下流側における一定の責任も製品に付随してくることになります。これは、各国の廃棄物等の法律とも大きく関係があり、可能性としては日本では資源の循環がやりにくいということも出てくることになるかもしれません。今後、EUは資源を域内で循環させることを強く試行してくる中でいわゆる囲い込みとも見える行動をしてくるかもしれません。EU市場の変化に応じ、日本の製造業も対応に動き出すと考えられますが、国としての明確な方針がない中では、自社優先の対応となる懸念は大いにあると思います。個々のセクターが勝手に動き出した場合、力は分散されます。ただ、日本でも資源の流出を止め、自国内での循環を進めることは行わなければいけません。
現在EUの社会がまだ実効的に動けていない中で、今は本気で日本の国全体の循環の仕組みの再構築を図るチャンスであると考えます。現在のような各個人や各企業等の取り組みに任せる3Rではなく、バリューチェーンの全体を見て、廃棄物処理に関する規制の再評価・検討や、住民・自治体も含んで業界を横断する循環に関するコンセンサスやガバナンス構築に向けて真剣に取り組まなければ、仕組から社会システムを作ってくるEUのやり方に勝てるとは思えません。
RtoS研究会では、この問題を継続的に議論していこうと考えています。
(文責:RtoS研究会事務局)
下記文書の和訳を行いました。
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